エルシニア腸炎(Y. enterocolitica)後の合併症
先日、最終診断がエルシニア腸炎(Y. enterocolitica)とGERDという症例を勉強会で経験しました。この症例は、時系列的に2つの疾患が別物として起こったと考えられると思うのですが、エルシニア腸炎がGERDを引き起こすことはあるのかという疑問が湧き、調べてみると下のような論文を見つけました。
この論文は非チフス性サルモネラ、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニア(Y. enterocolitica)の患者1,753名のGERD、機能性胃腸障害の発症について検討した後向きコホート研究です。最も多かったのはGERDで943名(53.8%)で、機能性便秘が373名(21.3%)、IBSが203名(11.6%)、機能性ディスペプシアが190名(10.8%)でした。
上の表は各病原体のIBS、機能性ディスペプシア、機能性便秘、GERDに対する補正前の相対リスクと補正相対リスク(以下、aRRと示す)を示したものであるが、Y. enterocoliticaのIBSに対するaRRは13.1で最も高いものでした。また、Y. enterocoliticaのGERDに対するaRRも2.3でY. enterocoliticaはGERDの発症リスクと言えます。
IBSとGERDのようにオーバーラップすることもあるようです。
上図は4つの病原体とコントロール群のIBS発症までの時間を示したものですが、Y. enterocoliticaは他の病原体よりも早くにIBSを発症するのも特徴的です。
非チフス性サルモネラ、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニア(Y. enterocolitica)腸炎後にGERDやIBSなどの機能性胃腸障害を起こした場合、GERDやIBSなどの機能性胃腸障害は腸炎が原因である場合もあるというのがこの論文のpearlでした。
参考文献
BMC Gastroenterol. 2013 Mar 8; 13:46.
Foucher's signとCrescent signの違い
Baker嚢胞に関連する身体所見として、Foucher's signとCrescent signがあります。
この2つの身体所見の違いについて今回は考えてみたいと思います。
Foucher’s signとは、膝を伸展すると腫瘤が堅くなり、膝を屈曲すると腫瘤が柔らかくなる身体所見のことです。Baker嚢胞は腓腹筋-半膜様筋滑液嚢が拡大することで起こりますが、Foucher's signは腓腹筋と半膜様筋が近づくことで嚢胞が潰されることで起きます。Foucher's signはベーカー嚢胞と膝窩動脈瘤、肉腫、外膜嚢胞、結節腫との鑑別に有用です。特異度、感度は調べてみましたが、私が調べた論文でも5人の有症状のベーカー嚢胞患者についてしか検討されておらず不明です。
Ann Rheum Dis. 1987; 46(3): 228-232.
UpToDate“ Popliteal (Baker's cyst)” (Last update Jul 10, 2019.)
Sm: 半膜様筋、Cys: ベーカー嚢胞、G: 腓腹筋
Fig.3は写真の上側が背側です。
(Ann Rheum Dis. 1987; 46(3): 228-232. より引用)
Crescent signとは、内果より遠位の斑状出血です。
前回の記事でも紹介しましたが、Baker嚢胞破裂とDVTとの鑑別に使えます。
Ann Intern Med 1976; 85: 477-8.
こちらも、特異度、感度については書かれた論文は見つかりませんでしたが、稀な所見ですので感度が低いことが予想されます。
白い矢印がCrescent signです。
(Ann Intern Med 1976; 85: 477-8. より引用)
詳しくは以前の記事をご覧ください。
https://rt-general.hatenablog.com/entry/2021/03/17/210636
Baker嚢胞破裂とDVTの鑑別に有用な身体所見
ベーカー嚢胞は偽性静脈血栓症(pseudothrombophlebitis)と呼ばれ、深部静脈血栓症と症状が似ています。ベーカー嚢胞はDVTのmimickerと言えます。
BMC Musculoskelt Disord. 2018; 19(1) : 345.
ベーカー嚢胞破裂後の抗凝固療法は出血やコンパートメント症候群を起こすため、DVTとの鑑別が重要です。Injury 1997; 28: 561-2.
では、ベーカー嚢胞破裂とDVTの鑑別に有用な身体所見とは何でしょうか。
Baker嚢胞破裂に特徴的な身体所見でCrescent signというものがあります。
Crescent signとは内果より遠位の斑状出血です。
まれな所見ではあるがDVTとの鑑別に使えます。
Ann Intern Med 1976; 85: 477-8.
実際には身体所見だけでは鑑別は難しく、下肢エコーが重要となります。
(J Gen Fam Med. 2019; 20: 215-216.より引用)
上の写真の矢印がCrescent signです。